湯川駅 ゆかわ JR紀勢本線 和歌山県東牟婁郡那智勝浦町(Open in Google Maps) 弓なりの浜に沿ってカーブする鉄路とホーム。足元にはマリンブルーの美しい渚、背後には深緑の山と入道雲。紀伊半島のほぼ南端に、絵に描いたような夏の情景がありました。 *2023年現在、線路脇の草刈りがなされ、より海が見えるようになりました。一方で、ホームの上屋とベンチは撤去され、ホームの一部が立ち入り禁止になっています。本ページの写真は2016年の訪問当時のものです。 訪問:2016年8月 / 更新:2023年7月17日 8月上旬のある日、午前7時。マリンブルーの列車でホームに降り立つと、目の前には列車と同じ鮮やかな青の海(この105系列車は2021年に紀勢本線から引退しています)。すぐ足元には湯川海水浴場(2020年から閉鎖)の砂利浜。対岸に見えるのはくじらで有名な太地町。その間に広がる海面が、まぶしい朝の日差しを受けて輝いていました。湯川駅の特徴が、海岸線に沿ってカーブした長いホーム。2016年の訪問当時には大きな屋根と重厚なベンチもありました。いずれも、かつて急行や特急も停車していた時代の名残です。しかし、1日あたりの乗降客数は40年間でおよそ20分の1に。2021年頃には屋根・ベンチともに撤去されてしまいました。ホームを南の白浜方面に歩くと、足元の砂利浜が途切れて、波打ち際がいっそう近くに。ごつごつした岩肌に白波が打ち付けます。駅名標は、列車が止まらないようなホームの先端にも。足元の雑草が誰もやってこないことを物語っていました。現在はホームの途中に柵が設けられ、残念ながらここまで立ち入ることはできません。振り返れば、海岸線の緩やかな曲線、背後の山。そしてきっと誰の目にも触れないであろうユリの花が、凛と咲いていました。東の方角には、大小約130の島々からなる「紀の松島」の姿。きらめく海と、勝浦と太地を発着する「紀の松島めぐり」の遊覧船。夏の日差しの下でも、じっと見つめたくなる、美しい海です。誰もいないホームに新宮行きの列車が到着。そのまま海岸線に沿ってゆっくりと走り去っていきました。その後、特急「くろしお」も通過。イルカをモチーフにした「オーシャンアロー」と呼ばれる車両でした。この明るいオーシャングリーンの車体も、海と空の青によく似合います。ホームの外にも出てみます。出口へと続く階段には、線画家の郷さとこ氏による鮮やかで楽しげな絵。紀勢本線(きのくに線)の新宮〜御坊間では、2014年から「紀の国トレイナート」というアートプロジェクトが開かれており、その一環で2015年に描かれました。階段をくぐった先にあるコンクリート製の駅舎にも壁画。出口の先に、駅前の喫茶店が見えました。現在は無人駅の湯川駅。足元には改札口が撤去された跡。出入口のすぐ脇には、立派な待合室も。湯川駅の開業は1935(昭和10年)。訪問時の2016年には80周年の立て看板がありました。立派で重厚感のある、湯川駅の駅舎。急行や特急が停車していた頃のにぎわいを想像させます。駅名板の水色の書体に、味がありました。駅前では小さな商店と喫茶店が並んで営業していましたが、現在営業中か判断できる情報はありません。当時、列車待ちの間に喫茶店にお邪魔しましたが、地元の老父たちが談笑していたのが印象的でした。なお、駅のおよそ1km北側には湯川温泉という小さな温泉郷があり、およそ1,500年の歴史を持つとされる「きよもん湯」もあります。再びマリンブルーの列車で、駅を後に。ところで、駅と海の間に茂みがありましたが、訪問後の2021年以降、和歌山大学の有志の学生さんが、地元の方などと一緒に草木を伐採してくださっているそう(参考)。今はもっと清々しく海が見えるはずです。