白壁の木造駅舎に差し込む、柔らかな陽光。出口の先には、爽やかなアクアブルーの海。旅情を凝縮したような風景が広がるここは、実は台湾。日本統治時代に建てられた築100年超の駅舎が、文化財として今でも大切に使われ続けています。今回は初めての番外編として、台湾北西部・苗栗県の新埔駅を訪問。異国の地でありながら、どこか懐かしい。不思議と居心地のよさを感じられる駅でした。
新埔駅
シンプー
- 2024年12月。台湾を訪れる機会があったので、海の見える駅を探して寄り道することに。今回訪れる台湾鉄路管理局(通称:台鉄)の新埔駅があるのは、首都・台北から南におよそ100kmの場所。台北駅からは約2時間と、盛大な寄り道です。まずは特急「自強号」で途中の竹南駅に向かいます。
- 竹南駅から「海線」と呼ばれる海岸線の普通列車に乗り換えます。4両編成の重厚な電車が停まっていました。
- 車内に観光客の姿はなく、日本の郊外を走るローカル線とほとんど変わらない雰囲気。まもなくすると車窓に海が見えました。台湾海峡です。新埔駅に到着する間にもいくつか海の見える駅を発見。早速次の楽しみができました。
- 竹南駅から30分ほどで新埔駅に到着。駅名標にもある通り、読み方は「シンプー」です。ホームに屋根こそありませんが、近年リニューアルされたのか、舗装や照明がしっかりと整備されています。
- 駅の海側には家々があり、亜熱帯の鮮やかな花や木々庭を覆っていました。見回す限り海が見える気配はありませんが…
- ホームの先端まで行くと、ちらりと海が顔をのぞかせました。
- コンクリート製の重厚な待合室の横を通り、跨線橋へと上がります。
- しっかりとした屋根で覆われた跨線橋の正面には水平線。日本にもありそうな景色ですが、「第一月台」(「月台」は中国語でプラットホームの意味)の看板が異国情緒を放ちます。
- 南国の海らしい爽やかな青色に、白波のアクセント。水平線の向こう、台湾海峡の先にある中国大陸までは約150km。ここから対岸が見えることはまずありません。
- 跨線橋からはのどかで広々とした景色が広がります。
- 跨線橋の端にはフェンスもなく、まさにパノラマビュー。
- 駅のそばには小さなコテージと、住宅などの小さな建物が数える程度あるのみ。地図を見る限り、新埔の集落はもう少し北にあるようです。
- 跨線橋を降りた先には年季の入った白い木造駅舎。改札口の正面でも、海が迎えてくれました。
- 駅舎の中に一歩入ると、異国のはずなのに、日本の木造駅舎ほぼそのままの情景が視界を埋め尽くします。それもそのはず、新埔駅が建てられたのは日本統治時代の1922(大正11)年。2005年には 苗栗県の文化資産 として登録され、100年以上経った今でも大切に残されているのです。
- 日本では、この規模の駅は無人駅が多く、窓口も塞がれていることが大半ですが、新埔駅は有人駅で窓口も現役。下車時に人の姿はありませんでしたが、帰りの乗車時には係員らしき方がいました。ただ、改札などは行っていない様子でした。
- その代わりなのか、改札口にはICカードとQRコード対応の改札機。台鉄は全駅で現地のICカードが使えます。立派な電光掲示板も天井にそのまま後付け。古い建物は残しながらも、技術の恩恵は惜しみなく提供しようという姿勢が伝わってきました。
- カウンターには日本にもよくある「駅スタンプ」。
- ふと横を向けば、木枠の窓越しに、青い海。そろそろ外へ出てみましょう。
- 駅の正面には、人通りもほとんどない細い道と空き地。海までは直線距離で150mほどです。
- これが新埔駅の外観。よく見ると日本によくある木造駅舎とも異なり、壁一面が白く、斜めの梁も露出。こちら にもある通り、和洋折衷のハーフティンバー構造(和洋混合風格的「半木構造建築」)の建物のようです。
- 所々窓ガラスが抜けていたり、塗装が剥がれていたり。写真では伝わりきらない味わい深さがあります。
- 側壁には丸窓。その上には日本風の屋根。白い壁は南国の青空に映えていました。
- 入口の駅名板は新しいものでしたが、非常にシンプル。ところで、写真右にあるトイレが日本のローカル線の駅のそれよりはるかに綺麗だったのは意外でした。
- 駅前にあった、「海線」の100周年記念で建てられたであろう看板。従前から内陸を通っていた「山線」の輸送力不足解消のために、後から海線が作られたそうです。
- 新埔駅の駅前通り。幹線道路があるのは線路の反対側で、こちらの道は非常に静か。駅前に停まるのも自転車ではなくスクーターばかりなのが台湾らしいです。ちなみに、写真左の看板を見る限りちまき屋があるようですが、営業している様子は伺えませんでした。見る限りすぐ近くに商店などはない様子。写真中央右の緩い坂道を下りて、海へと向かいます。
- 真冬だというのに、道中にはハイビスカス。この日の気温は23 ℃ほどで、初夏のような陽気でした。
- 駅から歩いて3分ほどで、海岸に到着。初めて間近で見る台湾の海に、思わず見入ってしまいます。
- まっすぐな海岸線には、遊歩道が整備されていました。鮮やかなオブジェに、海辺を散歩する人。憩いの空間です。
- ただ風がかなり強く、風力発電のプロペラがものすごい勢いで回っていました。
- 海岸線の道は自転車道路としても整備されており、チェックポイントのひとつとして新埔駅がありました。看板によると、近くの 新埔海堤 は夕日を見るのにもよいそう。
- 新埔駅への滞在は、わずか1時間。名残惜しいですが、帰りの普通列車に乗り込みます。今回は行けませんでしたが、駅の山側には写真右に写る 道教の壮麗な寺院 もあるようです。気軽な再訪こそ難しいですが、それでも、また来たいと思える素敵な駅が異国にもあると知れたことが、何よりの嬉しい発見でした。