鯖瀬駅 さばせ JR牟岐線 徳島県海部郡海陽町(Open in Google Maps) 旧土佐街道の難所「八坂八浜」。入り組んだ海岸線に並ぶ岬の狭間に、鯖瀬駅はあります。谷に架かるホームから望む、弧を描いた砂浜と多島美は、太平洋でありながら瀬戸内海のようです。鯖瀬はお遍路さんとも縁が深い土地。列車を待つ間に、お遍路さんのおやつとして生まれた名物「さばせ大福」をぱくり。海を見ながら感じる甘みは、まさに格別でした。 訪問:2018年8月 / 更新:2020年3月23日 8月の朝。徳島駅から牟岐線の普通列車に2時間揺られて、小さな無人駅・鯖瀬駅へ。ホームがあるのは、トンネルに挟まれた築堤の上。屋根もほとんどなく、日差しが容赦なく降り注ぎます。東を向けば、国道55号線の先に、青い青い太平洋。穏やかな波、いくつもの島々が重なり合うさまは、瀬戸内海にも思えてしまう情景です。駅の海側正面に唯一見えるのは「さばせ大福」のお店。そして、霊場の「鯖大師本坊」とお遍路さんの宿泊所「鯖大師へんろ会館」の看板が否応なく目に入ります。一方の山側にあるのは、鯖大師本坊と鯖大師へんろ会館(写真右奥)に加えて、数えるほどの住宅のみ。ホームにも当然人影はなく、列車を降りてから常に私ひとりだけ。山の向こうでは、入道雲が夏を演出していました。斜面を降りて、駅の外へ。鯖瀬駅には駅舎はなく、白い待合室だけが目印です。鯖大師本坊は四国八十八箇所霊場には含まれないものの、それらと同じく弘法大師・空海が祀られ、別格二十霊場に含まれています。「鯖瀬」の地名も 空海の伝説に由来 しているそう。駅のそばでは、白装束のお遍路さんに何回も出会いました。鯖瀬駅前を通る、国道55号線。車はもちろん、サイクリストもしばしば往来し、もの寂しさはありません。国道沿いには、徳島バス南部 の鯖瀬バス停もあり、牟岐駅〜海部駅〜甲浦駅間をほぼ並行して走っています。そして、駅前にある唯一のお店が「さばせ大福」。40年あまり前、お遍路さんのおやつとして売り出したのがきっかけだそう(参考)。売っていたのは、白餅、キビ餅のたった2種類の大福のみ。それでも、国道を走る車がときおり立ち寄るほど、名物として定着しているようでした。さばせ大福のお店のそばから、さらに小道を抜けて海岸へ。するといきなり、目の前に美しい弧を描くビーチが出現。目を凝らせば、沖に小船から海に潜っている人もいたり、出羽島をはじめとする大小さまざまな小島が見えたり。時間を忘れてうっとりと眺めていたくなる、穏やかな情景に出会えました。あっという間に次の列車の時間に。ホームで待ちながら、ちゃっかり買った大福を頂きます。個包装もされず、余計な味付けもない超素朴な「さばせ大福」。海を見ながらひとり感じるその甘みは、旅する者にとってこの上ないほど心に染みる味でした。